認可はゴールじゃなかった
EUの暗号資産規制「MiCA(ミカ)」のもとで営業許可を取得――これで一安心、と思っていた暗号資産カストディ業者(利用者の暗号資産を預かり管理する事業者)に冷や水が浴びせられた。
欧州証券市場監督局(ESMA、イーズマ)は今週、EU域内で認可を受けた暗号資産サービス事業者(CASP)を対象に、業務の“運用耐性”を横断的にチェックする「共同監督アクション(CSA)」の実施を発表。焦点は、預かり資産の管理体制、いわゆるカストディ業務だ。
デジタル資産インフラ企業トーラス(Taurus)の共同創業者、セバスチャン・デシモズ氏はCointelegraphの取材に対し、「規制当局からのメッセージは明確だ。カストディ業者にとって、ライセンス取得はスタートラインであって、ゴールではない」と述べた、と趣旨を語っている。
今回の調査は、MiCAの移行期間が終了した直後というタイミングで実施される、EUの新たな暗号資産規制の下では初期の大型監督案件の一つとなる。
「言うだけ」から「証明する」時代へ
ESMAがCointelegraphに明らかにしたところによると、今回のCSAは認可済みCASPのうち一部をサンプルとして実施される。調査対象となるのは、鍵管理・資産保管の方法、取引時のチェック体制、インシデント(障害・事故)発生時の対応、そして外部委託業者への依存度など、カストディ業務にまつわるデジタル運用耐性の“成熟度”だ。
業界関係者によれば、これは欧州の暗号資産市場における大きな潮目の変化を意味する。もはや「うちは安全です」と口で言うだけでは通用せず、実際にリスクに耐えられる運用体制であることを“証明”することが求められる時代に入った、というわけだ。
大手カストディ企業ビットゴー(BitGo)の最高執行責任者(COO)であり、ビットゴー・バンク&トラストの社長も務めるジョディ・メトラー氏も、機関投資家の顧客からすでに、資産の分別管理の方法、アクセス権限の管理体制、インシデント対応、そして相場が荒れた局面での事業継続体制について、より突っ込んだ質問が増えていると証言。「規制当局が見ているのは、免許の有無だけでなく、その裏側にある運用の“標準”そのものだ」との認識を示した。
ブロックチェーン基盤企業XYOの共同創業者、マーカス・レビン氏は、「MiCAの認可取得」と「運用耐性の証明」はまったく別の試験だと指摘。規制当局による審査が完了する前に、しっかりとした管理体制を証明できた事業者ほど、機関投資家の資金を呼び込むうえで優位に立てる可能性がある、との見方を示した。
MiCA×DORA、そして「監督一元化」論争の行方
法律事務所デジタル&アナログ・パートナーズの弁護士、ユーリー・ブリソフ氏は、今回の調査がEUの二つの規制の“合わせ技”の上に成り立っていると解説する。カストディ業務の義務を定める「MiCA」と、金融機関のIT・技術リスク対策を定める「DORA(デジタル・オペレーショナル・レジリエンス法)」だ。
「カストディ関連の技術は、ごく一部のベンダーに集中している。だからこそ、そのうちの一社が弱ければ、多くの企業が一斉に影響を受けかねない」とブリソフ氏。MiCAとDORA、二つの規制を同時に満たしながらサプライチェーン全体の“耐性”を証明することこそが、CASPにとって本当の難関だと語った、という。
さらに同氏は、今回の調査結果が今後、MiCA自体の見直し論議と、加盟国ごとの規制当局からESMAへとCASP全体の監督権限を一元化する構想――この二つの生きた議論に影響を与える可能性がある、とも指摘している。

