3兆ドル(約475兆円)に膨らんだ暗号資産市場。その規制を巡る重要な判断が、わずか3人の手に大きく委ねられている。
米議会がデジタル資産市場の仕組みを定める包括法案を成立させられないなか、金融規制当局は、暗号資産企業やトークンの募集・販売に対する監督、法執行のルールを見直す動きを強めている。
だが、その担い手である米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)は、意思決定を担う委員が大幅に不足している。両機関に残る委員は計3人。このうち2人は、ドナルド・トランプ米大統領が指名した人物だ。
SECでは10月初めにヘスター・パース委員が退任。残るのは、ポール・アトキンス委員長と、委員長代行を務めたマーク・ウエダ委員の2人だけとなった。
CFTCの人手不足は、さらに深刻だ。2025年12月以降、上院の承認を受けた委員は、委員長を務めるマイケル・セリグ氏ただ1人。本来、両機関とも委員の定数は5人である。
それでも、ルールづくりは進む。両機関が打ち出した規則案には、議会による暗号資産立法の穴を埋めようとする姿勢がうかがえる。
SECは8月、企業が発行するトークンについて、一定の条件を満たせば「投資契約」として扱われないようにするセーフハーバー規則案を公表した。
CFTCも10月に続いた。セリグ氏は、取引所に関する規則案を通じ、「現行法で認められた権限」を使って暗号資産規制に取り組むと表明。アトキンス氏も10月2日、暗号資産について「さらなる規制案が控えている」と述べている。
暗号資産のルールに、委員1人が最終判断?
委員不足のまま規則をつくる。その道をさらに広げたのが、SECによる「定足数」の見直しだ。定足数とは、機関が正式に意思決定するために必要な人数を指す。
SECは9月30日、定足数の要件を改める最終規則を公表。10月2日に施行した。目的として掲げたのは、「規則制定の柔軟性と確定性を高める」ことだった。
新規則では、他の委員がその案件の審議への参加を辞退するなどして、参加資格のある委員が1人だけになった場合、その1人で定足数を満たせる。在任委員が2人の現在、うち1人が審議から外れれば、残る1人が正式な規則を採択できることになる。
この変更に疑問を投げかけたのが、英紙フィナンシャル・タイムズのロビン・ウィグルスワース氏だ。10月5日の論説で、こう指摘した。
「いまや委員は2人しかいない。そのうち1人が、ある案件の審議を辞退せざるを得なくなることも、別の理由で不在になることも十分にあり得る。そうなれば、数兆ドル(数百兆円規模)に及ぶ米国の巨大な証券市場に適用される正式な規則を、たった1人で採択できる」
これに反論したのが、ウエダ委員だった。
ウエダ氏は10月11日、同紙への寄稿で、委員が2人しかおらず、トランプ氏から欠員を埋める追加指名の発表もない状況でも、SECの「使命に対する姿勢は変わらない」と主張。規則変更は、「1人を除く全委員がある案件の審議に参加できない場合でも、委員会が定足数を満たせることを明確にした」ものだと説明した。
そのうえで、批判に対してこう切り返している。
「残った委員が『思い通りにできる』よう、SECが定足数の規則を『慌ただしく改めている』と示唆すれば、架空のディストピア体制になぞらえた派手な論評にはなるだろう。だが、それでは委員会が規則を改めた理由も、その変更がなぜ改善になるのかも、読者に誤って伝わってしまう」
議会の法整備は間に合うのか
10月13日時点で、ホワイトハウスはSECとCFTCの欠員を埋める新たな指名を発表していない。両機関でそれぞれ1人の委員に規則制定が委ねられる状況が、数カ月、あるいはそれ以上続く可能性がある。
議会にも、まだ採決の時間は残されている。焦点は、デジタル資産市場の規制の枠組みを定める「デジタル資産市場明確化法案」、通称クラリティ法案だ。
ただし、2026年の中間選挙から2027年1月の新議会発足までの「レームダック会期」に、法案の審議が前進するとは見込んでいない専門家もいる。

